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心眼を開くメカニズム

Nature 466, 373-377 (2010)

「盲視」という現象を担う脳の領域は外側膝状体であることを示した論文. 脳科学はぜんぜん分からないのでデータを読むことはできないのだが,以前から盲視ってやつはすごく面白いと思っていたので斜め読み. 日本語の要旨はフリーで読める: 脳�盲視は外側膝状核によって起こる : Abstract : Nature

盲視(blindsight)というのは,目や視神経は無事なのだが大脳皮質の一次視覚野 (→視覚野 - Wikipedia) の損傷により視覚経験に障害をもつ人が,見えていないにもかかわらず見えているような反応を示すこと,と考えればいいかな (→盲視 - Wikipedia). たとえばモニター上の光点の位置を尋ねる (本人に光点は見えていないので,あてずっぽうで答えてもらう) と正解するとか (→ ASCONE2007講義 「盲視が明らかにする"気づき"の脳内情報処理」),向かってきたボールを避けたりとか (→ブラインドサイト(盲視または盲人の視覚)),そういったもの. つまり視覚刺激の脳への入力は複数の場所に行っていて,一次視覚野を経由しないと意識にはのぼらないのだが,無意識の反応の中には一次視覚野を介していないものがあると考えればいいのかな. 盲視も無意識の反応のひとつなのだが,これがどういう経路でどこに入力した視覚刺激によって起こっているのかが分かっていなかったわけだね. で,この論文ではそれを明らかにしたと.

行った実験は盲視と同じ状態を示すマカクザルを使った fMRI (→ fMRI - Wikipedia) と,脳の領域特異的な機能阻害実験. それにより視床の外側膝状体 (→外側膝状体 - Wikipedia) とかいう領域が重要であることが分かったと. ふーん. Wikipediaによると,その外側膝状体とかいう領域は,視覚的注意をある空間に向けるのに重要だという話だから,盲視に見られるような現象もそれで説明できるのかもね.

なんとなくこれを読んでいて,以前どこかで見たイチローの話を思い出した. イチローに限らずスポーツをやってる人から「体が勝手に反応する」という話をよく聞くけど,イチローはとにかく来た球を反応で打って,一塁上でその場面を頭の中で巻き戻しつつ反芻して反省点を探す,とか言っていた (糸井重里との対談だったかも:「イチローに糸井重里が聞く」). ってことはたぶん,バッターボックスの中では視床を経由するような無意識の反応で打って,あとから思い起こす時に大脳の視覚情報を使うのかもなあ. とか素人考えで思ったりして.

「盲視」の話を初めて知ったのは,ラマチャンドランの「脳のなかの幽霊」を読んだ時だったなあ.


この本はもう本当に,めちゃくちゃ面白かった. もうちょっと若いころに読んでいたら,脳研究を志していたかもしれない. ……でも脳の研究者には信じられないほど頭がいい人が多いような気がするので,志さなくて正解だった……かな?

by LIBlog | 2010-07-15 19:59 | さいえんす関連
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