アイドルマスター 朝起きたら男の子になっていた。前編 - ニコニコ動画(9) マイリスト asao+komako投稿作品全部‐ニコニコ動画(9) 芸能プロダクション,765プロに所属するアイドル菊地 真のもとへ,ある日とつぜん不幸な運命が襲いかかった. 目覚ましとともに起きた朝,みずからの股間に元気に自己主張する見慣れぬモノがあったのだ. 夢であってほしい. でも夢ではない. 学校で,女子更衣室で,意志に逆らって暴れるソレ. たまらず早退する真. いままでずっと,まわりは真王子などとはやしたてた. ファンたちも家族も仲間も男の子の役割を期待した. 本当は女の子らしくなりたいとずっと思っているのに. なのに,それなのに,本当に男の子になっちゃうなんて,そんなのあんまりだ! あまりの理不尽さに,困惑と,行き場のない怒りと悲しみを抑えられない真. ところがこの事件は,真ひとりの中ではおさまらない帰結を生むことになった. 真をめぐって,今まであやういバランスの上でなんとか平和を保っていた765プロの人間関係. それがこの事件をきっかけにして一気に崩れ,二度ともとに戻らない形で進んでいくことになってしまったのだ. ふたたび765プロが平静を取り戻すことは果たしてあるのか. そして真の運命は? ……. きっちょむさんイチオシのノベマス,「朝起きたら男の子になっていた。」,通称「朝男」. 勧められるままに最新版まで通して見た. いやいや,こりゃ面白いや.びっくり. って,びっくりというと失礼かな. でもほんとに驚いたんだから仕方ない. 物語序盤ではこんなガチな人間ドラマが展開していくとは考えてなかったからね. なにしろ朝起きたら男の子でしょ. しかもこの作品世界では動物が普通にしゃべってたりするし. そりゃ油断するわいな. それがまあ,物語が進むにつれて,「昼ドラみたいな修羅場」と登場人物が言っているようなドロドロの生々しい恋愛ドラマになっていくもんだからなあ. まあそんなわけで,ドロ沼な展開が好きな人は文句なしに楽しめる作品なんじゃないかな. でも,だからといってそういう展開が苦手な人は見ない方がいいのかというと,そんなことはないのだ. ほかならぬ私自身,痛々しい展開はちょっと苦手で,あまりにドロドロな恋愛劇はご勘弁ねがいたい方なんだけど,「朝男」はすごく楽しめた. 物語がすごく濃いのに,わりとスルッと入っていけるのだ. 塩分濃度が高いのに舌ざわりはサッパリしていて気づいたら完食していた,という気分. これは作品のバランス感覚のよさ,シリアスと笑いと甘々とサスペンスの混ざり具合が絶妙なおかげだろうな. それからニコニコ動画という視聴環境によるところも大きそうだ. 胃がシクシク痛むような修羅場でも,「修羅場ktkr」とかコメントが流れていてくれるだけで場がなごんで,私にとってはかなり救いになった. 逆にもっとドップリ修羅場に浸りたければコメントを消して見ればいいわけで. そこらへんのさじ加減を調節できる作品鑑賞のありかたってのはけっこう面白いと思う. というわけで,恋愛をめぐる喜怒哀楽のあれやこれやを楽しむという意味では最高の物語体験が味わえる「朝男」,ぜひおすすめ. ここまで踏み込むか!と驚かせるアイドルたちのキャラクター描写,それから演出のうまさなどは非常に感じ入るものがあるし,密度の濃いテキストも魅力的. 最新作まで本当に夢中になれる. シリーズは今も連載中なので,いっしょに次回をヤキモキしながら待たなきゃいけないという悩みを抱え込みましょうw もし長編をいきなり見始めるのにためらいがある方は,作者PちゃんPのテキストがどれだけの力を持っているかちょっと試し読みしてみてはいかがだろう. それにはこちらの前後編がおすすめ. PちゃんP作品で私がマジでワンパンKOされるのは,じつは立ち絵なしテキストのみの部分だったりする. これもそのうちの一つだ. 本編や番外編でも随所に登場するテキストのみの部分は,いろんな意味で ものすごい破壊力. 疾風怒濤,抱腹絶倒. ~成長していく物語~ 朝男を通して見た時,なによりもまず強く印象に残ったのはアイドルたちのキャラクター描写だ. ここまで踏み込んだ描写をするのか. これほどまでに本性をさらけ出させるのか. それはたとえば黒い雪歩やスパイラルに入る春香の描き方に顕著に見られる. これはおそらく多くの視聴者が驚きとまどう場面だと思う. だがそれだけでなく,ほとんどすべてのアイドルたちの描き方に,見る人によっては拒否したくなるような部分を入れている. 優柔不断な真,わがままな美希.やさぐれるやよい. 視聴者のほとんどはアイマスのアイドルたちのファンだろう. それぞれのアイドルたちへの思い入れも強いに違いない. そんな視聴者を前に,アイドルたちにこれほどダークサイドを見せる役割を演じさせるということに,まずは驚かされる. でもね,よく見ればわかることだけれど,ダークサイドと言ったって,誰一人として本当のワルモノはいないんだよね. 雪歩と美希の対立だって,恋愛に本気であればこそのものだし,真がふらふらと癒しのある方に流されていくのも,やよいが仕事に焦るのも,ごく自然なこと. ただ,ここのアイドルたちは少しばかり衝動が強いだけなのだ. そしてまた,その衝動に思わず突き動かされてしまうくらいには子どもでもある. たとえ間違っていようとも,どうしようもなく行動させてしまうほどに強い衝動をもつキャラクターたち. 一歩間違えば視聴者の反発を買うかもしれないが,そんなキャラクター達によって動かされる物語は,とても面白いものになる可能性だってあるだろう. 完結を見るまで結論は出せないが,朝男はそれが吉と出る例になるのではないかと思う. 少なくともこれまでのところは面白い.やたらと面白い. たとえば真を誘惑する美希. 大好きな人を失いたくなくて身体でつなぎとめようと必死だ. それに乗ってしまう真. 求められる嬉しさに,つい拒めずに手を差し伸べてしまう. 雪歩も春香も,自分の衝動が全開になってしまったあとには,かならず深く深く後悔し自己嫌悪におちいる. 自分が傷つくのはいやだ. でも,だからといって他の誰かが傷つくのも,同じくらいイヤなのだ. 本当は,みんながみんなを好きなのである. 良かれと思ってやったことが,あとから相手を苦しめる. その姿をみて自分も苦しむ. 誰も彼もがそうして一度ならず何度も痛い目にあっている. それは彼女たちが子どもだからだ. 忘れてはいけない.彼女たちはまだ中学生,高校生なのである. 大好きな人がいるからこそ,ライバルに危機感を募らせる. すれちがう思いにいらだつ. そして何より,自身の身の上に起こったあまりにも理不尽なできごとにただただ戸惑う. どれもこれもごく自然なことだ.むしろそんな状況をコントロールして主体的に振る舞うなんて,高校生に期待するのは酷すぎるのではないだろうか. それでも当事者である彼女たちは必死の思いで動いている. だからみんな大人になりたいと願うのだ. 成長したいと祈るのだ.
「どうしたら大人になれるんだろ 成長するというのは,どういうことなのだろうか. 自分の中だけに,黒い衝動を押し殺してしまえばいいのだろうか. 本音をおさえこんで大人みたいにふるまえばいいのだろうか. ……そんなことではダメだろう. 自分だけが犠牲になれば人間関係がうまくいくというものではない. 少なくとも,「物語では」そういう解決は否定されてほしいと個人的には思う. そうではなくて,その衝動とうまくつきあい,他の人たちの衝動と折り合いをつけていく方法をなんとか見つけ出していくこと. 自分の衝動を認め,相手の衝動も受け止めること. そんな道を探せるようになることが成長なのだ. 目の前の誘惑や近くにある答えだけに目を奪われず,それがどんな結果にむすびつき,どういう影響をおよぼすのかをあらかじめ考えられるようになること.それこそが成長するということだろう. 最近の真は,春香との関係にあきらかに成長のあかしを見せていて頼もしい. あれ以上の「正解」を私は思いつかない. そこにたどり着けた真は,私にはちょっと大きく見える. 本質は変わっていないのだけど,根本は同じなのだけど,少しだけ前に進んだように思えるのだ. いや,まだ「頼もしい」と言えるほどではないかもね. でも,さすが真,くらいは言いたいな.
朝男シリーズは,物語に引き込む吸引力の強さがずば抜けている. それはもう底なし沼のように,片足をつっこんだらズブズブとハマり込んでいってしまうような魅力がある. 麻薬的と言ってもいいくらいだ. PちゃんP作品は,朝男に限らず基本的に言葉が多い. セリフに状況説明に独白と,ここ一番の心理描写は非常に饒舌にたくさんの言葉を重ねて表現される. それは動画の長さにも反映されている. だいたい10~20分のシリーズを,一話ごとに平均して10章ぶんくらい積み重ねているので,一話につき二時間以上! 各話それぞれが映画なみなのか.すげえな. ところがこのシリーズは,その長い長い言葉をすべて読ませてしまう力にあふれている. テキストに視聴者を食いつかせているのだ. 一字一句たりとも読み飛ばすことができないくらい中身が詰まっていて飽きさせない. 私はけっこう小説でもマンガでも読み飛ばしてどんどんページをめくってしまうほうなのだが,朝男シリーズはぜんぜん読み飛ばさなかった. これ,たぶん表現されている人物がとことん人間くさく生々しいことと,表現そのもののテンポやリズムがいいこと,このふたつが同居しているからだろうと思う. たとえば浮気に感づく小鳥さん. 寝込んだ真を前にぐるぐる回る思考を止められない. このシーンは白眉だと思う. 賭けだった こんなこと聞いても何も答えないかもしれない 時間にしたら数分もないだろうわずかな間の葛藤をえんえんと描写する言葉の積み重ね. これを飛ばし読みなどできるはずもない. つづく3話,美希の「一番になりたい,でも二番でもしかたない,それでもやっぱり一番になりたい……」,あれも切ない堂々巡りだったなあ. 大好きな人だけどあきらめよう. 浮気はいけない. 別れよう. ……みんな,なんとか誘惑を振り切ってやっとたどりついた結論だ. それなのに思わずそれをひっくり返さずにいられない. 行きつ戻りつ. 一歩進んでは一歩下がる. 行動は一貫せず,思いは同じところをぐるぐるまわる. それは人間そのもの. この姿こそが人間だ. まして恋とかコンプレックスとかが絡んでくればおのずと敏感にならざるを得ない. そんなところをこれだけじっくり描写されてしまうと,どうしたってキャラクターに入り込まされてしまう. キャラクターが何を考えているか,ひとつもごまかさずに書き尽くしているからこそ,キャラクターの吸引力が強くなるのだと思う. テキストを読ませるテンポも心地よい. BGMや背景画像,キャラクターの動き,さらにはテキストボックスの中の配置ですら工夫されていて,おおっ,すげーなーと思う.
しかしこれはたまたま冒頭にあったために,ああ工夫されているなあ,と気付いたこと. とくに最近のシリーズになってくると,こうした演出がごく自然に物語に溶けこんでいて,「演出そのもの」に目を奪われなくなっていく. それはほんとうに演出がうまいという証拠なんだと思う. 演出に目がいくってのは一歩引いて見ていて,その物語の中に入り込んでいないってことだからね. だから本シリーズでは演出がうまいということに思いが至らないくらいうまいわけだ. また近作ではシリアスなシーンでちょっと笑えるBGMを流して視聴者の緊張をすこし和らげたり,もう自由自在だ. この演出力もまた,物語に引っ張り込む力のひとつになっているのだろう. 朝男のドラマ進行に関して,以前きっちょむさんが面白いことをおっしゃっていた. 朝男では,罪に対する報いが必ず描かれているというのだ. 子どもであったことの,相手を傷つけてしまったことの報いは必ず受けなければいけない. しかしそのことを忘れなければ,前に進むことができる. 美希も真もやよいもそうやって試練を乗り越えてきたんだよね. 雪歩ですらそう. それが「成長を描く」ということなのだ. でもねーそういう成長物語という主題からちょっと外れたテーマを抱え込んでる人が,成長物語の中にひとり入り込んでいるんだよね. それが小鳥さん. 小鳥さんは,物語が一気に進むきっかけに近いところにいる人だ. というか実質,最初の一歩を踏み込んだのは彼女だよね. あれは決して「大人の振る舞い」とは言い切れないけれど,それによって直接誰かを傷つけたというわけではない. にも関わらず報いは受けてしまっている. その報いってのは,子どもから大人に成長するためのものではないんだよな. 彼女は恋愛や友情だけを考えなきゃいけないアイドルたちとは違う段階にいるわけだ. 小鳥さんは今のところ,報いは受けても先に進んでいるとはいえないよねえ. 彼女はこれからどうなるんだろう? ふつうに考えればパンダPあたりとゴニョゴニョなるしかないような気がするけど (パンダつれて実家に挨拶に行ったらどういう反応されるんだろうね? この世界では普通のことか?),もしそうなったとしても朝男のメインテーマとは外れちゃうよな. んー,でもねー私はちょっと気になっちゃうなー. 真もアイドルの皆もPちゃんPは卓越した手腕で幸せな決着を付けてくれると思う. でも小鳥さんのあれやこれやも描いてくれると嬉しいなあ. それはもうアイドルたちの物語とはちょっと外れた大人の物語になっちゃうかもしれないけどねー. 小鳥さんについては,こうなってくれたらなあ,と夢見る展開はあるけど,それは書かないでおく. むしろ私の脳内のつまらない展開などはるかに超えるような面白い物語が見たいな,などと空想をさらに広げつつ,次回をたのしみに待ちたいところだ.
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| 2010-09-11 13:12
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