「色黒の社長の話」。

ガルシアPの「とのばな」シリーズ,第七話が投稿された.

【ニコニコ動画】傲慢なプロデューサーと、孤高のレーベル主宰者の話。


自然に引き込まれる独特の魅力と,予想を裏切る展開の心地良さはそのままに,物語は進みつつもその広がりを増してきている.

「駆け出しアイドル」をめぐって,ふたつのプロダクションはいよいよ真正面からぶつかっていくことになるだろう. かつてはアイドルとして,ときに戦い,ときに助け合ってきた彼,彼女たちが,こんどはその活躍の場をプロデュース業に移して,ふたたび戦おうと,あるいは助けあおうとしている. 勝利の女神はどちらに微笑むことになるのだろうか.

…….

今回あまりにもワクワクしたので,すこし今までのシリーズを振り返りつつ,思うところを書いていきたい.

ネタバレ格納.




今回,第七話の展開にすごくワクワクしたのは,ああやっぱり「色黒の社長の物語」は面白そうだ,と思ったからだ. 両社の社長どっちもこの対立の先を見ている,その意味するところを理解している,こりゃすごいぞ,と思ったのである.

現プロデューサーたちは,対立そのものをいかに勝ち抜くかに集中している(ように見える). だが社長たちは,彼ら彼女らがそうすることで何が起こるか,を見ているように思われるのだ. もしそうだとしたら,すごい,かっこいいとしか言いようがない. そう思って,俄然彼らに興味が湧いてきた. ああ,やっぱりこのシリーズで語られるのは,光やPや……の物語だけじゃないんだ. 「色黒の社長の物語」だって,ものすごく面白そうじゃないか. そう再確認した.

というわけで,「色黒の社長の物語」を読むうえで,以前ぼんやりと考えていたことを貼りつけてみたい. 以下は「とのばな一気見生放送」を見た後に書いた文章です.

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本シリーズの正式名称は「色黒の社長の話。」である. これはガルシアP自身が宣言し,強調しておられることだ.

しかし実は,私自身は,そうなのかなー? とわずかに違和感を持っていた. これは周りの人達の話であって,色黒の社長その人の話ではないんじゃないか? と疑っていたのだ.

というのは,「色黒の社長」は,これから物語の中では成長していかないんじゃないか? と思っていたからだ. 音無光も,プロデューサーたちも,この物語の中で成長していっている. だが社長はもう完成しているんじゃないか? 完成している人を「▲」と叫びつつ眺めるのは,それはそれで素晴らしいけれど,それってその人の話なのかな? という疑念があったのだ.

この疑いが的を得たものかどうかは分からない. ただ今回,もしそうだったとしても十分「色黒の社長の話」と言えるっぽいなあ,と今さらながら考えを少し改めた. もし彼が完成された人物なのだとしたら,その「完成に至る物語」すなわち過去の物語や,完成された彼の本質にせまる推理の物語ならば,たしかに彼の物語と言えそうだなあ,と思ったからだ. すでに冬馬くんが彼らの過去を推理しようと色々動いているわけだしね.

というわけで,その「過去」あるいは「推理」の物語をより楽しむための手がかりになりそうな場面について,少しばかりメモを取っておこうと思う. 彼が「助けた」人物について,である.

作品中で,過去,あきらかに黒井社長が助けた人物が二人いる. 音無光と,現765プロ社長である. なぜ黒井社長は,彼ら彼女らを助けたのだろうか?

現765プロ社長については,第五話で冬馬が同じ疑問を持つに至っている. なぜ敵のエースを助けるようなことをしたのか? と.

そして作品を素直に受け取れば,つまり表層だけを読めば,もっとも受け取りやすい解答は,それに続く黒井社長のセリフの中にあるだろう.

王者は逃げぬ!

全てで勝る相手を倒してこそ、
――真の王者だ


すなわち正面からぶつかって相手を倒してこそ,自らの強さ,正しさを証明できるというわけだ. 相手のことなどどうでもいい,自らが完ぺきな勝利をおさめるために,王者であることを見せつけたいがために,あえて敵を助けた,というわけである. 表層だけを読めば,これがいちばん素直な受け取り方だろう. それはどこまでも自分中心,自分のための行動である.

いっぽう音無光はどうなのか.なぜ彼女を,黒井社長は助けたのだろうか.

またも作品を素直に受け取れば,つまり表層だけを読めば,第一話での「助ける場面」前後の描写に,その理由はほのめかされている,と読めるだろう. すなわち「あと,たった一つ」とは何か,ということである.

第一話,黒井社長は高木社長の墓前で,こう言い放つ.

「私は、全てを手に入れる。
あとは、たった一つだ.」

そのたったひとつを手に入れるために,音無光を救うわけだ.だからこそ,その後に彼は「全てを手に入れた」と記されるのだ.

そのたったひとつとは? これも素直に,誘導されるままに表層を読めば,「音無小鳥(の心)」だろう.あるいは「高木社長(からの勝利)」とも読める. なぜならば,墓前での「たったひとつを手に入れる」宣言の直後の場面が,小鳥さんに詰問するシーンだからである.

「助けを乞え、音無小鳥」
「『娘を助けて下さい』と、
『お願いします』と、私に言え」

その直後に唐突ともいえる「高木と この私を一緒にするな!」という発言も合わせて考えれば,ここではその「たったひとつ」とは,小鳥さんか高木社長を意識してのセリフだと受け取るのが自然だろう. だとすれば,プロデューサーと同じように,光を助けた理由も徹頭徹尾自分のためだと言えそうだ. 彼ら彼女らの命はどうでもいい. ただ自分が負けないこと,正しいこと,それだけを示すことができれば,それでいいのだ.

だがしかし,そのように受け取っている視聴者はいるだろうか? むしろ表層に描かれていない,彼の本質のような部分を行間から読み取って,そして「▲」と叫んでいる視聴者が多いのではないだろうか. というか他の視聴者のことは知らないが,私はそうである. 黒井社長の本質は,そんな表層だけで読みとれはしないと思う. だからこそ「▲」なのだし,「ファンの聖地」にもなったのだろう.

そして勇み足気味に踏み込めば,表層だけに目を奪われず,本質を見届けよ,というメッセージは,この作品を通じて作者が届けたいメッセージそのものなのではなかろうか.

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まあ最後の憶測に憶測を重ねたような話はどうでもいいとして,黒井社長がどういう人物なのかを考える上で,彼がやったことと,その理由を追いかけることってのは大事だろうなーと思う. 見方によっては旧765プロほとんど全員が高木社長を亡くした後に黒井社長に救われたのだ,と言えなくもなさそうだし.

だいたいこんな感じのことをぼんやりと思い浮かべつつ,アイドルたちや元アイドルたちの物語と並行して,「社長たちの物語」を,彼らの「過去」や本質を「推理」することを楽しんでいきたいなあ,と思っているのでありました.

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by LIBlog | 2011-06-12 22:18 | 動画サイト関連 | Comments(2)
Commented by ガルシアP at 2011-06-15 23:02 x
何度も書きかけては消し、書きかけては消しで現在に至ります。
とても深く読み解いて頂いているので、うっかり気楽なコメントができませんね。
妙な発言がヒントになって、推理・推測が確証になるのも望ましくないでしょうから。
でも、せっかくなので1点だけ。
「第1話」と、「第2話以降」では、社長の行動の原動力が異なります。
第1話のラストの出来事は、社長の想定外の出来事だったからです。
見ているもの、目指すものは、そのターニングポイントの前後で分けた方が繋がりやすいかもしれません。
深読み、先読み、ハードル上げ、大歓迎です。
力の及ぶ限り、期待に応えつつ予想を裏切れれば、と思います。
Commented by LIBlog at 2011-06-16 12:56
コメントありがとうございます. そして,こちらは好き勝手に書いてるのにコメントにお気遣いいただいたようで,なんだか申し訳ないです.

私はあまり精確に丁寧に読み込むということをしないもので,いきおい的を外した読解をしてしまうことも珍しくなく,作者さまをやきもきハラハラさせてしまうこともあるかと思いますが,その点につきましてもお詫び申し上げます. ま,でもあまり反省はしないのでタチが悪いのですが…….

読解のヒントをひとつ頂きまして,いろいろと想像するものがまた出てきました. 社長が零細ながら,あそこに,あの時期にプロダクションを作ったのにはどういう意図があったのかな? などと. そんなことも心に留めながら,これからも作品を楽しませていただきたいなーと思ってます.
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