仲野徹先生の「なかのとおるの生命科学者の伝記を読む」を読んだ.
あまりの面白さにため息. 卓越した業績を残した科学者の伝記は,その仕事だけ追ったものであっても十分面白いのだが,そのうえその家庭的思想的歴史的社会的背景にまで迫られたら,そりゃーとてつもなく面白くもなろうというものだ. クレイグ・ベンターや森鴎外の闘いの人生を,前者はおおきな尊敬と親しみをこめて,後者はいくばくかの苛立ちと,やっぱりある種の親しみをこめて語る. 研究に対するジョン・ハンターの狂気と隣りあわせの姿勢を,好奇心丸出しで語る. オズワルド・エイブリーのひたすら真摯な姿勢を,その口調に尊敬と憧憬をたたえつつ語る. 本書は「伝記」ではなく「伝記の書評」のかたちをとっている. それゆえということもあろうが,伝記そのものとちがって基本的にほとんど一次資料にあたってはいない. が,しかしそのぶん著者の主観が色濃く出ていて,そこを楽しめる. 同業者ならばこそ,卓越した研究者の優れたところと困ったところをつまびらかにしていく筆者の評に「あるある」と思わずつぶやかされる. ついでにあとがきはさらにそのまとめ(三次資料?)なのでもっと主観的で面白い. 各伝記の面白い部分はギュッと凝縮して詰め込んである. 「伝記の書評」であるがゆえに,各伝記の紹介としてもすぐれた一冊だといえる.本書は単体でも楽しめるし,さらに気に入った研究者について知りたいと思えば,それぞれの伝記を手に取ればいいのだ.お得感満載. すこし残念なのは,連載されてたのが専門誌の「細胞工学」なので,彼らの業績そのものの紹介は,非専門家の読者にとってはやや難解なのではないかと思うところ,かな. 子どもや異業種のひとには薦めにくい本かもしれない…….
by LIBlog
| 2012-03-06 20:55
| マンガ・本
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