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肋骨ができる場所を決めるメカニズム

Dev. Cell 18, 655-661 (2010)

ろっ骨や背骨などの中軸骨格 (axial skeleton) のパターニングにおける Hox の役割について. Figure が印象的なので,ちょっと無断で引用しつつメモ.

ヘビなど多くの爬虫類では,頭からしっぽまでほとんどの背骨 (椎骨,vertebrae) から肋骨 (ribs) を伸ばしている. いっぽう,われわれ哺乳類では胸の部分だけから肋骨が伸びており,首や腹などに肋骨は無い. だから首やおなかは胸よりも自由にひねったりよじったりできるのだ (肩は自由に回せるじゃん,と思うかもしれないが,それは別の機構による.肩甲骨の自由度や鎖骨の支持などの). ところで椎骨は似たような骨の繰り返しなのに,どこからどこまでで肋骨が伸びるのか,きちんと決まっている. それはどういう機構によるのだろうか.

体軸 (body axis) に沿った位置情報の決定に重要な遺伝子といえば Hox 遺伝子が有名だ. ご多分に漏れず肋骨の位置を決めるのにも Hox は重要である. たとえば Hox10 グループを本来発現しない胸部に強制発現すると肋骨がなくなることが以前から知られていた (下図.論文より転載.こちらから見て左は正常なマウスの骨格,右は Hox10 強制発現マウス).図が小さめなのは転載の許諾を得ていないから……
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本論文で著者らは,Hox6 グループを本来発現しない領域に発現させることで,ほぼすべての椎骨から肋骨が伸びることを見出している (下図.こちらも論文より転載.左は正常,右は Hox6 強制発現マウス).
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さらに Hox がはたらく経路についても興味深いデータを出している. 上記のような Hox の少なくとも一部は,骨になる硬節 (sclerotome) ではなく,背筋などの筋肉になる筋節 (myotome) 経由で肋骨の位置を決めているようなのだ. もうすこし正確に言うと,Hox は転写因子で,上記の Hox のターゲットは筋肉の分化に必要な Myf5 や Myf6 といった転写因子であり,肋骨形成に関して Myf5/6 は遺伝的に Hox の下流に存在する. そして筋節から分泌因子を介して硬節に情報が伝わる.

しかし,なぜそんな遠回りな経路をたどるのだろうか. 彼らの予想はこうだ. 骨と筋肉(骨格筋)は運動 (支持) 器官として互いに密接に関連している. したがって,それぞれ勝手に形を変える余地を残しておくと,よくないことが起こりやすいだろう. これが骨と筋肉を共通の分子機構で つくることの意義なのではないか.

ところでこの論文,Hox の本来の発現時期と発現領域について ほとんど言及していないのだが,それはちょっとどうかと思う. いや,レファレンス読めよという話なんだけど,イントロでちょっと説明してくれたっていいんじゃないの?

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by LIBlog | 2010-04-28 19:26 | さいえんす関連 | Comments(0)

「AQUA」に住んでいる

最近ずっと,「AQUA」の世界に行っている.

 


「AQUA」全2巻,「ARIA」全12巻 (天野 こずえ) を一月ほど前に一気買いして読んだ. で,読み終わっても,もう一回,もう一回って感じでずっと読んでる. 今は他のマンガの世界に行きたくない,ずっとこの世界にいたい気分なのだ. おかげで買うだけ買って積んであるマンガが30冊以上になってしまった.

「AQUA」と「ARIA」は,今から数百年後の世界,テラフォーミングされて,水の惑星「AQUA」と呼ばれるようになった火星が舞台の物語.
水の都・ヴェネツィアを模してつくられた街,ネオ・ヴェネツィアに,観光案内のために小型の舟(ゴンドラ)をこぐ水先案内人,「ウンディーネ」 の修行を重ねる3人の少女たちがいる. 物語は,彼女たちが見習いから半人前を経て,一人前のウンディーネ 「プリマ」 になるまでを描いたものだ.

ヴェネツィアの名に恥じない四季折々のうつくしい景観と,それをおもいきり楽しむ街の人々. 街と人とのふれあいがやさしい物語だ.

……と,最初に読んでいたときは思っていた.
うんうん,きれいな景色だね,やさしい人たちがいいね,いまを楽しむことが大事だよね,みたいな感じで.

ところが物語の終わりにさしかかったとき,うわ,なにこれ,という胸をこみ上げる思いに襲われ,そして最後にはとてつもない感動につつまれていた. これは不意打ちだった. まさかこれほど心を動かされるとは思っていなかったのだ. 別になにかドラマチックなことが起こるわけでもなんでもない. 起こるべきことが起こった,というだけなのに.

それはたぶん,この作品の世界に入り込んじゃったからなんだろうな. 14巻通してず~~っと描かれてきた「AQUA」の,ネオ・ヴェネツィアの中に浸りこんでしまったから,起こるべくして起こったことにここまで心を動かされるんだろう.

で,読み終えた勢いで,もう一度最初から読み直してみる. すると,もうその世界に入り込んでいるもんだから,最初はなんでもなかったエピソードの一つ一つが輝いて見える. 街角のほんのちょっとした木の,水のざわめきとか,ゆきかう人の様子とか. いやー,いいものだ. なにごとも起こらなくても,だからこそいい.

そしてもういちど最後までたどり着くと,やっぱり感動している自分がいる. いや,これは感動するでしょ.

とにかくこの作品は,最後の最後まで何事も起こらないんだよね. 何かが起こるのは,まさに最後の最後. 主人公たち3人の中の一人,アリスがミドルスクールを卒業するときをきっかけにして,すべてが変わり始める. この作品の時間の流れからすると,激動といっていいくらい,すべてが急に変わっていくのだ.

変化は,成長は,主人公たちが待ち焦がれていたもの. それでも心のどこかでは,変わってほしくない,と彼女たちは思う. 私もそう思ってしまう. 今のままがいいじゃないか. なぜならこんなに世界は美しいし,みんなやさしいんだから. ずっとそのままでいたいじゃないか.

でも,そうではないのだ.

激動が始まろうとしているとき,主人公は,2体の人形を引き連れた老人に出会う. 人形は,それぞれ悲しみと喜びをたたえている. なぜ? それは,あるときに胸に抱かれた思い,それを永遠に変わらず閉じ込めておきたいという願いが人形に込められているからだ. しかし主人公は その姿に違和感を隠せない. それに対し老人は言う.


それはとても自然なことなのです

何故なら私達人間は
常に変わり続けていく存在だから

終わらないでほしいと願う嬉しい時間

終わってほしいと願う哀しい時間

すべてのものに変化は平等に訪れます

すべてのものは,変わっていってしまう,変わっていかなくてはいけないものなのだ.
たしかに,変わっていくことは怖いことだ. いまがこんなに楽しいだけに.
でも大丈夫. 変わったあとだって,変わらずに楽しいのだ.

どうしてそんなことが分かるのか.

「水の三大妖精」と呼ばれるプリマ・ウンディーネたちがいる. ネオ・ヴェネツィアを代表する選りすぐりのウンディーネ3人だ. じつは主人公たち3人の師匠でもある.
彼女たちも,修行時代はずっと3人一緒だった. いまでも忙しい中,時間を見つけては3人一緒の時間を過ごす.

これ,まちがいなく主人公たち3人の未来の姿なんだよね. 彼女たちの未来の姿を私たちは見ることができている. だから大丈夫なんだ,と思えるのだ. 物語では描かれなかった「変わった先」,その未来は,じつはきちんと描かれていたのだ. 最終回では,未来と過去の円環がきれいに閉じて,物語が終わることになる. その美しさに,感動するんだよね.

そんな物語を読んで,「私も物語世界を卒業していかなきゃ」とも思わされるのだけど, でもやっぱり最終回まで来てしまうと,またもう一度,もう一度と読み返すことになってしまう.

まあいいじゃないか. 私はもう少しこの世界にいたいのだ.

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by LIBlog | 2010-04-25 21:05 | マンガ・本 | Comments(4)

生命現象を理解するというのは,どういうことなのだろう

Dev. Cell 18, 675-685 (2010)

Resource. マウスの受精卵(1細胞期)から64細胞期まで,割球ひとつひとつを取りだしてマイクロアレイにかけ,割球ごとの個性が出るのは いつどこからなのか明らかにしようという試み.

受精卵は全能である. どんな細胞にも分化することが可能だ. しかし2細胞,4細胞……と分裂していくと,少なくとも64細胞期には,おもに胎盤になる栄養外胚葉 (trophectoderm) と,胎児になる内部細胞塊 (inner cell mass) に分かれ,それぞれにおいて全能性は失われる. この両者の区別はいつどのように生じるのだろうか. 本論文の著者らは,16細胞期には細胞ごとにいくばくかの個性が生じる可能性を報告し,その過程に関わる遺伝子の候補を挙げている. またそれに続く内部細胞塊の分化についても同じような解析を行っている.

……この研究が目指す方向を思うと複雑な気分になる. たぶんマイクロアレイはいずれシークエンシングに取って代わられると思うけど,ま,それはいいとして.
この研究の先には,受精卵からしばらくの間,すべての細胞において起こる遺伝子発現 (の変化) をすべて明らかにできる可能性が示されているように思う. さらにいえば,そのうち Gene ontology なんかに見られるように,タンパクの相互作用とかシグナルのカスケードとか,そういったレベルでもすべて解明されるかもしれない. また胚発生に限らず,ある疾患の発症過程でもなんでも,あらゆる細胞のあらゆる分子の挙動をすべて記述することができるようになるかもしれない.

しかし,そうなったときわれわれは,生命現象をすべて理解した! とスッキリした気分になれるだろうか. 心から快哉を叫ぶことができるだろうか. ……いや,できないだろう. わけのわからないごちゃごちゃしたデータを前にとまどうばかりなのではないだろうか. だとするとわれわれがいま目指していることというのは,いったい何なのだろう.

…….

とはいえ,そのような心配は無用だとも思う.
物理学を例にとって考えてみる. 一知半解,詳しくは知らないけれど,物理学でも似たようなことが起こったのではないだろうか.
ニュートン以来の古典力学が洗練されていったとき,
「すべての物理法則は明らかになった. あとは初期条件やある時点の宇宙の状態を厳密に明らかにできれば,宇宙のいつどこで起こったことも起こることも,すべて知ることができる」
と考える人たちがいた (ラプラスの悪魔!). しかし,のちに複雑系カオス理論なんかが登場することにより,初期条件その他を厳密に知ることはできないことがわかってしまった. さらには量子力学の登場により,そもそもそういう考え方はどこかに吹っ飛んでいってしまった.

このようなことは生物学においても起こるに違いない. いまの研究が積み重ねているような事実の果てに,いまわれわれが生物を眺めているような視点は,さらに遠くからの視点に取って代わられるだろう. それがどういう視点なのかをいま知ることはできないけれど.
いや,いますでに知っている人がいるのかもしれない. 私がそのことに気づいていないだけで.

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by LIBlog | 2010-04-23 19:49 | さいえんす関連 | Comments(0)

p21を抑えることで再生能力が強くなる

Proc. Natl. Acad. Sci. USA 107, 5845-5850 (2010)

失われた器官を再生させる能力がもしあったとしたら,ぜひとも欲しいものだ. その能力のカギを握る因子について. Nat. Rev. Genet. 11, 314-315 (2010) で紹介されていた.

哺乳類では,いったん成体になってしまうと,手足などの付属器官が切り落とされてしまったら再生することができない. たんに傷口がふさがるだけである.
しかし両生類には成体になっても付属器官を再生することができる種が存在する. またヒドラだとかカイメンなんかも強力な再生能力の持ち主だ. そうした種では,傷口に再生芽 (blastema) という非常にさかんに増殖する細胞のかたまりができ,それが育って もとどおりになることが知られている. ここはひとつ哺乳類でも再生芽をつくりだすことができないだろうか?

MRL という系統 (strain) のマウスは "healer" strain とも呼ばれる,哺乳類としては例外的に高い再生能力をもつマウスだ. こいつらは切り落とされた指を部分的に再生することができるし,耳に穴を空けても再生可能だ (ヒトでは耳の穴ってふさがるよ?と思うかもしれないが,軟骨も含む完全な再生はできない). そしてこのとき再生芽が傷口にできることが示されている. この再生能力,再生芽形成能力をささえるメカニズムは何だろうか.

両生類だのヒドラだのが再生芽をつくる時に起こることは,脱分化 (dedifferentiation) と細胞周期再エントリ (cell cycle reentry) だ. では healer マウスが再生芽をつくるときには何が起こっているのか. 本論文では細胞周期再エントリが healer マウスでは起こり, ふつうの nonhealer マウスでは起こらないことが示されている. それなら両者の違いはどこにあるのだろう. その違いは腫瘍抑制因子 p53 のターゲットでありサイクリン依存性キナーゼ (cyclin dependent kinase, CDK) を抑制する働きをもつタンパク,p21 にあるらしい. おおざっぱに p21 関連のデータを まとめると,healer では nonhealer とちがって再生が起きているときには p21 の発現が低く抑えられていること,そしてnonhealer から p21 を除去 (ノックアウト) することで,healer とほとんど変わらないくらいの再生能力が得られる,というところが重要なポイントかな. つまり p21 をなくすことで再生能力を強化することができるわけだ.

しかし p21 を失うことにより細胞周期のコントロールが失われることや,DNA のダメージが増えることも以前から知られている.また MRL "healer" マウスの細胞は DNA ダメージが入りやすいことも分かっている.そう簡単にいいことばかりというわけにはいかないってことに注意したい.

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by LIBlog | 2010-04-20 19:50 | さいえんす関連 | Comments(0)

TEDで海中散歩

あいかわらず TED がおもしろい (参照:TED (カンファレンス) - Wikipedia). どれだけ見ていても飽きない. 同じものでも何度も何度も見る. べつに英語の練習とか意識せず,ただただ見る. もう単純におもしろいのだ.

以前,宇宙論についての講演をまとめてみた (→こちら) が,今回は宇宙と並ぶ秘境,「海」についてのトークをまとめてみたい.

海洋,海底は今でも謎だらけである. 火星の地図の方が海底の地図よりも完成されているというほどだ. 浅瀬はまだいい,海底はおそるべき水圧で,4000mも潜れば暗黒の世界である. ちかくてとおい,まっくら暗い,暗い.

しかし未踏の地には足を踏み入れたくなるのが人類というものだ. ありがたいことにわれわれはTED を通じて,いながらにしてその発見と冒険のあとをたどり,その神秘の一端にふれることができる.

以下,3つほど 「海」 についての講演を並べてみる. いずれも英語の講演だが日本語字幕が出るので問題はないと思う. あるいは英語字幕で見てみるとか,字幕なしでチャレンジしてみるのもいいかもしれない.

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水中の驚き by デイビッド・ガロ (David Gallo shows underwater astonishments | Video on TED.com)

まずは5分ほどの短い講演. 海底にすむ生き物たちについて紹介している. この世のものとは思えないほど美しい光を放つ深海の生物たち. CGだろ!?と言いたくなるくらいあっという間に体色を変化させる軟体動物たち.

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写真に写っているのはイカ. 彼らの体は通常赤色なのだが,オス同士でケンカするときには攻撃色である白色に変化する.
ここで注目すべきはこちらから見て左にいるオスだ. 右にいるメス側は赤色である. しかしメスから見えない左側は白. そう,他のオスが近づかないように威嚇しているのだ. メスと位置が入れ替わると瞬時に体色も入れ替わる. ヒツジの皮をかぶったオオカミとはまさにこいつのことだろう.

講演の最後をかざるニンジャの映像も必見. もうホントに,何度くりかえし見てもそのたびごとに驚く. 動物奇想天外である.

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ティアニー・ティス: 巨大マンボウと過ごすとき (Tierney Thys swims with the giant sunfish | Video on TED.com)

つづいて,海洋生物学者による,巨体が愛らしいマンボウについてのトーク.

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気候変動や水質汚染により,クラゲの異常繁殖が世界のそこかしこで見られる. これは,こと日本のように漁業が重要な国にとってあまり嬉しいことではない. マンボウは実はクラゲを主食にしており,そのために最近注目されているらしい.

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マンボウはもっとも巨大な硬骨魚で,もっともたくさんの卵を産む脊椎動物で (一度に三億個!),成長率も脊椎動物ナンバーワン. まぬけな顔つきとひとなつっこい性格が魅力的だが,その生態はこれまで謎につつまれていた.

演者らは衛星を利用した追跡調査をおこない,彼らの一日の,そして一年の行動を明らかにしている. そこにはある意味で「引きこもり」であり,しかしある意味ではとても忙しく活発な彼らの姿があった.

内容も楽しいけれど,この演者のトークは英語の聞き取り練習にも良いと思う. わりとゆっくり話しているし,発音が非常に明瞭だ. いや,それにしてもみんなプレゼンがうまい. ほれぼれするなあ.

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ロバート・バラードの海洋探査 (Robert Ballard on exploring the oceans | Video on TED.com)

トリはこの人. 本職は地球科学者だが海洋「探検家」として紹介されている. まさに「探検家」と呼ぶににふさわしい. なにしろプレートテクトニクス理論すらなかったところから,その分野を開拓していった人物の一人なのだから. まさに地球科学の黎明から発展の時代とぴったり重なって研究者人生を送ってきたのだ.

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それにしてもこのオッサン,ひとときも休まず歩きまわり腕を振りまわし熱弁をふるう.66歳にもなるというのに,体中がエネルギーに満ちている.楽しい楽しい.

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これは彼を含む調査隊が深海で発見した熱水噴出孔.300℃を超える熱水が沸くそこは,金属資源に満ち,見たこともないような生き物にあふれていた.

彼の「探検」はとどまるところを知らず,その後も世界各地の海底を探りつづける. そして地殻変動の証拠,古代文明の跡,不可思議な生態系をつぎつぎに見つけだすことになる. なんという充実した魅力的な研究者人生か. そりゃあ活力にも満ちようというものだ.

総じてみんな,子供のように目を輝かせながら語る,語る. もう海のことが心の底から大好きなのである. 演者を見ていても楽しい,もちろんトークの内容だって抜群に楽しい. 英語も勉強でき(たような気になっ)ちゃう. これを見のがす手はないですぜ旦那.

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by LIBlog | 2010-04-19 23:24 | 動画サイト関連 | Comments(0)

メシを減らせば,寿命は延びる

Science 328, 321-326 (2010)

レビュー.食餌制限と老化について解説したもの.
さすがに商業誌に載るだけあって,非専門家でも読みやすく書かれている. その分野のスペシャリストしか読まないような専門誌に載るレビューとはぜんぜん違う.

というか,すでに解説記事が:

5号館のつぶやき : 健康で長生きするために

とても詳細でていねいな記事だ. ここまで図とか転載しちゃっていいの? と思わず心配してしまうくらい.
というわけで,レビューの内容について知りたい方は上記の記事を読めばよいということで,ここでは大ざっぱな まとめと,少し上の記事で触れられていないことについて補足したい.

メシを減らせば寿命は延びる. これはヒトで証明するのはむずかしいが,サルを含む多くの動物で確認されていることである. しかも循環器系の疾患や糖尿病やガンなど,いくつかの病気にかかりにくくなる. 「腹八分目に医者いらず」は本当だった.

どのくらい食う量を減らせばいいのだろうか.ネズミなどでは,いつでもエサが食える状態(不断給餌)と比較し 10%~50% ほど減らすことで効果が出るようだ.減らせば減らすほど寿命は延びる.しかしある一線を越えると急速に寿命がちぢむ.そりゃまあそうだよねえ.

ところで,なぜメシを減らすと寿命が延び,健康になるのだろうか.そのしくみが分かり,しかもそれを操作することができれば,腹いっぱい食っても健康長寿,というのも夢ではなくなるかもしれない.
食餌制限から老化防止に至る経路は,おそらく栄養感受経路 (nutrient-sensing pathways) を介している. 詳細は省くが,この経路を遮断することで食餌制限と似たような効果が得られる場合があることが明らかにされてきた. ここらへんの研究は,ヒト以外のモデル生物についてのそれも含め,かなり興味をそそられるものだろう.

ただし食餌制限は良いことばかりではない. ここははっきりさせておく必要があるだろう.上の5号館のつぶやきさんの記事では生殖能力に影響が出るということが指摘されているが,それだけではない. まずケガをしたとき,傷の治りが遅れることが分かっている. また感染症にかかりやすくなる. おそらく免疫能力が低下するのだろう (しかし,ややこしいことに「加齢による免疫機能の低下」は遅くなるのだけど).

そういうわけで,アンチエイジングだ!などと安易に無理なダイエットを始めるのはおすすめできませんよ,ということを補足したいのであった.

…….

ところで,個人的な印象だが,極端な暴飲暴食や断食なんかをしないかぎり,寿命にもっとも大きく影響してくるのは生活習慣や社会活動や「生きがい」などの外的要因なのではないだろうか.

そこらへんのことがよくわかるのが,TED で見られる以下の講演 (英語だが日本語字幕あり).

ダン・ベットナー:100歳を超えて生きるには(Dan Buettner: How to live to be 100+) | Video on TED.com

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この講演では,世界に点在する,とくに寿命が長いことで知られる地域,ブルーゾーンについての調査が紹介される.

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そしてついに明かされる「長生きの秘訣」.それはいったいなんだろうか!?

……続きは,動画でご確認ください.

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by LIBlog | 2010-04-17 19:32 | さいえんす関連 | Comments(0)

Nature Communications 創刊

Nature本誌のこの紹介記事を見て思い出したが,Nature Communications っていう Nature の姉妹誌が この4月から出ているんだった.

巻頭言的な記事を見るに,オンラインのみの発行という点から,速報性をウリの一つにするようだ. また著者らがいくらか料金を支払うことでオープンアクセスにできるってのは Nature 姉妹誌では初めてかな?(違うかもしれない.Nature もその姉妹誌も投稿なんかしたことないので分からない)……気になるお値段は,¥637,350. 60万円超かい! PNAS だと10万円くらいじゃなかったか. さすが Nature.

トップに並んでいる論文をざっと見たが,内容はともかく,トップページのインターフェースが見やすくてすばらしい. 他のオンライン誌,たとえば PLoS Biology などの PLoS 系とか BMC Developmental Biology なんかよりもずっと見やすく分かりやすいという印象をもった.

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by LIBlog | 2010-04-15 17:36 | さいえんす関連 | Comments(2)

「戦士の遺伝子」をめぐる騒動

NewScientist の,遺伝子と行動について論じた以下の記事が面白かった.

Dangerous DNA: The truth about the 'warrior gene'

学習障害と強い攻撃衝動が男子だけに出現するというオランダのある家系に,X染色体上の遺伝子,モノアミン酸化酵素A (monoamine oxidase A, MAOA) が機能しなくなる変異が見つかった. MAOA はヒトの攻撃性の遺伝的要因として初めて見つかったものだったため,のちに戦士遺伝子 (warrior gene) と名づけられ,悪い意味で有名になってしまった.

この遺伝子産物の機能は,役目を終えた神経伝達物質 (参照:神経伝達物質 - Wikipedia) を分解,除去すること. オランダの家系の例は,この遺伝子の機能がまったくなくなってしまうという珍しい変異だったのだけど,この遺伝子の働きが少し弱くなったり強くなったりするバリエーションは世界中に広く見られる. そしてそのバリエーションが人間のさまざまな行動パターンや精神疾患などに関連していることがつぎつぎに明らかにされてきた. 投資するときにどれだけリスクをとるか,鬱や神経症の発症,喫煙やアルコール中毒…….

しかし当然,これらの中には疑わしいものも多い. またそうでなかったとしても,この "warrior gene" は操り人形の人形師のように我々の行動をぜんぶ決めてしまうようなものではなく,似たような働きをもつ たくさんの遺伝子の中のひとつにすぎない. にも関わらず,"warrior gene" とキャッチーな名前をつけられたことで,この遺伝子が決定的であるように印象づけられてしまった. 果ては "warrior gene" の機能と特定の人種の「性格」をステレオタイプに結びつけるような見方まで出てくる始末だったようだ.

実際にはそうした決定論的な議論には無理がある. それは,たとえば "warrior gene" が喫煙やアルコール摂取などにより機能が弱まること (つまり生まれつきのバリエーションがすべてではない) や,"warrior gene" の機能が低くて攻撃的な人は,実はほとんど幼児期に虐待にあっていたこと (つまり行動そのものではなく,ストレスなどへの感受性に影響していそうなこと) などからも明らかだ.

そんなわけで,あまり短絡的な議論にくみするわけにはいかないけれど,遺伝子と心や行動,生まれと育ち (Nature vs. Nurture とか言われるアレ) の関係を知るうえでは,とても貴重で興味をひかれる例であることはまちがいない. うまく舵をとりつつ研究をすすめる必要があるよね,という記事だった.

……人間の行動や情動に影響する遺伝的要素ってのは,とてもナーバスになる必要があるものではある. とくに上の記事の中でも論じられているように,ニュースや情報公開なんかで非専門家に伝えるときには.
でも,同時にものすごく興味をひかれる研究対象であることはまちがいない.

個人的には,すくなくとも自分の遺伝的ポテンシャルは あまさずすべて知りたいなあ. たとえそれがネガティブな情報 (3年後にアルツハイマー病を発症する,とか) であったとしても,ね.

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by LIBlog | 2010-04-14 20:03 | さいえんす関連 | Comments(0)

「パズルの軌跡」

パズルの軌跡 (機本 伸司 著,ハルキ文庫) 読了.

同著者デビュー作「神様のパズル」の続編にあたる作品で,やはり天才少女大活躍.……また天才少女の話であるところが,私の好みはじつに偏っているというか分かりやすいというか.

主人公である平凡な青年と,その知り合いの天才少女が,ちょっとしたきっかけから行方不明者の追跡をするうちに,いくつかの秘密結社的な組織に関わっていくことになり……,という話. 筆者とくいの物理学の知識も頻出してくる.量子コンピュータに始まり,パリティ非保存や高エネルギー加速器などなど. でも「神様のパズル」ほどストーリーにしっかりとハマり込んでいる感じではなかったようにも思う.

個人的には,前半のミステリー的展開がちょっと退屈で,後半の秘密組織との抗争と脱出劇が面白かったかなー.

今作でも天才少女・穂瑞(森矢)沙羅華の,天才であるがゆえの孤独感や虚無感と,その感覚に突き動かされて,ある種の彼岸に向かおうとする行動が印象的だった. ただ,前作ほど彼女は思いつめていたり不安定だったりしないことがわかって,よかったよかった,とも思わされる. それがまた,どうしようもなく頭が悪い主人公のおかげだったりするところもまた王道だなあ. 天才の相手はバカにしか務まらないものだよね.

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by LIBlog | 2010-04-12 19:58 | マンガ・本 | Comments(0)

「神と世界と絶望人間」

神と世界と絶望人間 00‐02 雷撃☆SSガール2神と世界と絶望人間 03-08 雷撃☆SSガール2 (至道 流星 著) 読了.

  

「雷撃☆SSガール2」 とあるように,前著 雷撃☆SSガール と同じ世界を舞台にしていて,前作のキャラクターも登場してくる.


なかなか面白かったけれど,個人的には,前作ほどではなかったかな. 3冊すべて買って出費は4000円を超えているけど,値段に見合うくらい楽しめた,って感じだろうか.

今作も,やはり前作と同じように経済小説と呼ぶべきもので,現代日本・アメリカを舞台に,あの手この手で巨万の富を築いて目的を遂げようとする,という物語になっている.

ただ,今作は上下巻に分かれているぶん,一巻だけの前作よりもていねいに企業活動の内容だとか世界の裏側だとかを描いている印象がある. そのぶん前作のような目が回るほどの展開のスピーディーさはないけれど. また,911テロ陰謀説を始め,陰謀論的世界観がきわだっている. これには拒否反応を示す人もいるかもしれないが,ことの真偽はともかく,そういう世界観の物語なのだ,と割りきって読めばいいんじゃないかな.

私としては,今作でもやっぱり天才少女が活躍していて,それを見ているのが楽しかったな.でも前作に比べると,一人の天才が傑出しているわけではなくて,むしろ少数精鋭のチームが活躍する話になっているんだけどね.

印象的だったのは,チームのなかでも特にスポットが当たる男主人公(ヒーロー)と女主人公(ヒロイン)の心と行動が変わっていくところだった. 二人とも最初から心の中に大きな欠落を抱え込んでいて (ヒーローは物語冒頭で,ヒロインは生まれたその時から),その原因である「世界の王者」ブランフォート家に対して復讐のための戦いに挑んでいくのだけれど,やがて同志かつ同種である二人の間にが芽生えて育っていき,戦いの目的は変化していく. 巨大なスケールの経済戦争,情報戦争の合間に,そういった……なんというか男女の愛と親子の愛と戦友とが全部合わさったような心の交流が見られて,とてもよかった.

…….

さて,私は前作「雷撃☆SSガール」を非常に気に入っているので,その続編として今作に期待していたものがある.
それは,「雷撃☆SSガール」中でじゅうぶんに描かれなかった,主人公リンの敵としてのクリス・ブランフォートの来歴と心情だ.

主人公の天才少女リンは,世界を征服して今の体制を大きく変革しようとしている.
世界を,歴史を,人間を俯瞰的に見る彼女が,どうしてそのような考えをもつにいたったのか,それは作品中でていねいに描かれている.

いっぽう,リンに敵対しているにも関わらず,じつは誰よりも深くリンのことを理解しているのがブランフォートである.
それどころか,若いころのブランフォートはリンと同じことを志し,同じような行動をとろうとしていたようだ. クライマックスのリンとブランフォートの論争で,それが明確に示されている.

しかし,なぜ彼はリンと同じ思想を抱くにいたったのか?
そしてなぜ,リンが志した道を,ブランフォートはあきらめたのか?
それどころか,自分と同じ道を志しているはずなのに,ブランフォートがリンに敵対するのはなぜなのか?
それは前作では描かれなかった.

で,「雷撃☆SSガール2」はブランフォート側の,覇道の物語だ,という噂をきいたので,この疑問に対する答えがあるのではないか,と期待したんだよね.

…….

期待は,半分こたえられ,半分こたえられなかった.

世界の裏の王者であるブランフォートが,若いころ何を考え,何を目指して,何をしたのか,それは結局わからないままだった.
でも,どうして世界を救うことをあきらめたのか,それはよくわかった気がする.

救う対象である大衆がバカでアホすぎるからだ.

読者には,大衆がいかに考えなしに動いているかということが,徹底的に示され続ける. 今作の世界観がたぶんに陰謀論的なのは,そのことを浮き彫りにしたかったからではないかと思ってしまう. ああ,こりゃー救えねーな,と思わされてしまうのだ (ただし,作中の大衆がバカでアホだからといって,「現実の」大衆もそうだとは必ずしも思わないけど.というか現実の大衆には私自身も含まれるからねえ). なるほど,ブランフォートがあきらめるのも無理はない.

とはいえ,これはブランフォートの「出口」であって,「入口」ではない. 私はやっぱり,高貴な義務感に満ちた若かりしクリス・ブランフォートの活躍が見たい. たぶんそれを見てはじめて,「雷撃☆SSガール」のクライマックスの論争の意味がよくわかると思う.
「雷撃☆SSガール」のファンとして,クリス・ブランフォートの物語が,いつの日か語られるのも楽しみにしたい.

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by LIBlog | 2010-04-10 18:53 | マンガ・本 | Comments(0)