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九十三日目 論文メモ

Natureが今号も絶好調に面白い.

Nature 460, 49-52 (2009).山中さんによるレビュー.昨日ニュースになってたな.ニュースの方はネットでタイトルを見ただけだが.
iPS cellのオリジナル論文では,germline-competentなiPS cellになるのは,4つの因子を持つレトロウイルスをぶっかけたsomatic cell全体の0.05%にすぎない.これほど低確率であることに鑑み,iPS generationに関して二つのモデルを考えることができるだろう.ひとつはエリートモデル.これは,そもそもsomatic cellにiPSになれるcompetenceを持っているものが少数しか存在しないというもの.普通に考えてその候補はtissue stem cellだろう.しかしこのモデルに対しては否定的なデータが多い.たとえばtissue stem cellは全体の零点何パーセントしか存在しないのに,iPSの方は化学物質などによって産生効率を上げられる(今のところだいたい~10%ほどまではいくらしい)こと,またCre-loxp lineage tracingにより,terminal differentiationをした細胞もiPSになりうることが分かっているということ(たとえば肝臓由来のiPSには,かつてアルブミンを発現していたものが含まれる).エリートモデルには,トランスジーンが入り込んだゲノム上のlocusによってiPSになるかどうか決まるという考え方も含まれる.しかしこれは最近よく見る,ゲノムへのintegrationなしでiPS産生ができるっつー報告により否定されるはず.まあ完全に棄却できるとはいえないけど.
さて,エリートモデルの他に考えられるのが確率論的モデル (stochastic model) だ.ただ4因子を細胞にぶち込むだけではない条件がiPS化には必要で,それが“たまたま”起こっている細胞がiPSになっているのが現状である,という考え方.以下では4 factorsの発現条件(順序や量など)のコントロールや,リプログラミングの際のヒストン修飾などのepigeneticなregulation(発生関連遺伝子は,ESやiPSではいわゆるbivalent chromatin structureになる)などについて議論している.

Nature 460, 60-65 (2009).Article. サンショウウオは四肢を切り落としても再生する.そのとき切り落とした根元の細胞は脱分化 (dedifferentiation) して再生芽 (blastema) をつくると考えられていた.しかし本論文によると,脱分化は完全ではなく,ある程度分化の方向が限られた前駆細胞 (progenitor cell) になるだけのようだ.GFPのトランスジェニック!アホロートル(ウーパールーパー)を使った移植実験により,それを示している.たとえば真皮 (dermis) は再生したとき軟骨・腱にもなるが筋肉にはならない,とか.また,骨(だった細胞)に関しては,もともとの位置情報が再生時にある程度反映される.しかし末梢神経(だった細胞)に関しては,そのような位置情報の保持は見られないとのこと.両生類のスーパーな再生力の分子機構を明らかにすることは重要だよね.だってあいつら成体の脳ですら再生するんだから!

Nature 460, 66-72 (2009).Article.ざっと眺めただけだがこれは凄い.テロメラーゼのcomponentの一つであるTERTが,SWI/SNF chromatin remodeling factorであるBRG1と協調して,Wnt/b-cateninシグナルのco-activatorとして働く.ES cellとXenopus,mouseで見ている.テロメラーゼがcanonical Wnt signalingに関わるときたか.もはやなんでもありだなあ.

他にもletterで,ヒトESからIsl1を指標にfunctionalな心臓の幹細胞と種々の組織を作っている報告(Nature 460, 113-117 (2009).Kenneth Chienラボ.表紙はこれだな)とか,Oct4がX-chromosome pairingとcountingに関わっているという報告(Nature 460, 128-132 (2009))など,重要なものが満載.

(7/6追記:表紙はChienらの論文ではないようだ.失礼しました)

by LIBlog | 2009-07-03 18:10 | さいえんす関連
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