Science 327, 302-305 (2010)
これは面白い論文. 生物進化ってのは,ある生き物が,今まで持っていなかった新しい性質(器官とか形とか)を獲得する過程である (もちろん「獲得」には「退化」も含まれる) と捉えることができるだろう.で,最近よく言われているのが,新しい性質の獲得には,遺伝子が新しくできることではなく,すでに存在する遺伝子が発現する時期や場所を変化させることが重要である,という考え方.でもこの考え方,正しいとか正しくないとか証明するのは簡単なことではない. さて,脊椎動物の付属肢 (手足.ヒレも含む) は運動器官だ.それゆえ流線形の体の方が運動するのに有利な環境にいる種では,付属肢は進化の過程で失われることが多い.で,本論文はイトヨ (threespine stickleback fish, 学名Gasterosteus aculeatus) を使って,その進化のメカニズムを探ることにより,かなりハッキリと上の考え方の確からしさを示したもの. イトヨはトゲウオの仲間で,その名の通りトゲを持っている.このトゲだけど,実は腰帯 (pelvic girdle) を伴っている.すなわち骨盤みたいなトゲを支える構造が存在している.ところで同じイトヨの中にも,トゲを持つものと持たぬものがいる.この両者で linkage mapping してみると,トゲ+腰帯の有無に関連しているのはPitx1 (Pituitary homeobox 1) という転写因子をコードする遺伝子を含む領域だった.Pitx1 は後肢に発現し,その発生に必須である遺伝子.ところがトゲありトゲなし個体の両者で,Pitx1 のタンパク質コーディング領域は全然違わず,違うのはcis 調節領域 (腰帯特異的エンハンサー) だった.そしてトゲ+腰帯なし個体に,腰帯特異的エンハンサー+Pitx1 コーディング領域をトランスジェニックでぶち込んだところ,トゲができることがわかった.これは遺伝子本体ではなく発現調節機構が,ある形態の進化に重要なことを強く示唆する結果だよね. さらに統計的手法を駆使して集団遺伝学的解析も行っているけど,ちょっとこれはパス.
by LIBlog
| 2010-01-15 18:07
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