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幹細胞の老化は,環境を変えることで制御可能だ

実験医学2010年4月号で紹介されていた以下の論文はおもしろかった:

Nature 463, 495-500 (2010)

あーてぃくる.造血幹細胞の老化はニッチに依存するという話.もっとセンセーショナルに見出しをつけるならば,若い血液を入れれば若返る!!! とでもなるだろうか.もちろんこれは誇大広告すぎてウソなのだが,拡大解釈すれば そう言い張ることもできるデータも含まれている.

論文の解説は実験医学当該号の News & Hot Paper Digest を読めばいいとして,ちょっとした背景とかを書いてみる.

我々の体をつくる細胞のほとんどは,早さに違いはあれど,つねに死んでは新しく生まれ……を繰り返している.ところが年をとると,この置き換わりのペースがきちんと保たれなくなっていく.これはさまざまな加齢性疾患や,あるいは傷の治りにくさなどの原因になる.

さて,血球は骨髄にある造血幹細胞から供給されている.そしてご多分にもれず,加齢とともに その供給のバランスは乱れていく.これは造血幹細胞そのものの変化が原因とされるが,さらにその変化の原因はというと,幹細胞をとりかこむ微小環境,ニッチ (niche, ニッシェとも呼ばれる) の変化なのではないか,という考え方が提示されていた.

で,本論文では,造血幹細胞の老化は確かにニッチに依存していることを確認しており (だからニッチを若くすれば幹細胞も若返る!),さらにニッチの老化を制御するシグナルは別の動物種でも寿命に関係することが知られている insulin-like growth factor, IGF であること,なども明らかにしている.

……ちなみに冒頭の「若い血液で若返る」とかいう放言は,若いマウスと老化マウスを結合し血液を交流させた (parabiosis) ところ,老化マウスの造血幹細胞の状態が若くなった,というデータをことさらに取り上げたもので,論文自体が主題にしていることとはちょっとズレている.

by LIBlog | 2010-04-07 19:56 | さいえんす関連
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