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肋骨ができる場所を決めるメカニズム

Dev. Cell 18, 655-661 (2010)

ろっ骨や背骨などの中軸骨格 (axial skeleton) のパターニングにおける Hox の役割について. Figure が印象的なので,ちょっと無断で引用しつつメモ.

ヘビなど多くの爬虫類では,頭からしっぽまでほとんどの背骨 (椎骨,vertebrae) から肋骨 (ribs) を伸ばしている. いっぽう,われわれ哺乳類では胸の部分だけから肋骨が伸びており,首や腹などに肋骨は無い. だから首やおなかは胸よりも自由にひねったりよじったりできるのだ (肩は自由に回せるじゃん,と思うかもしれないが,それは別の機構による.肩甲骨の自由度や鎖骨の支持などの). ところで椎骨は似たような骨の繰り返しなのに,どこからどこまでで肋骨が伸びるのか,きちんと決まっている. それはどういう機構によるのだろうか.

体軸 (body axis) に沿った位置情報の決定に重要な遺伝子といえば Hox 遺伝子が有名だ. ご多分に漏れず肋骨の位置を決めるのにも Hox は重要である. たとえば Hox10 グループを本来発現しない胸部に強制発現すると肋骨がなくなることが以前から知られていた (下図.論文より転載.こちらから見て左は正常なマウスの骨格,右は Hox10 強制発現マウス).図が小さめなのは転載の許諾を得ていないから……
肋骨ができる場所を決めるメカニズム_e0175273_1802559.jpg

本論文で著者らは,Hox6 グループを本来発現しない領域に発現させることで,ほぼすべての椎骨から肋骨が伸びることを見出している (下図.こちらも論文より転載.左は正常,右は Hox6 強制発現マウス).
肋骨ができる場所を決めるメカニズム_e0175273_180267.jpg

さらに Hox がはたらく経路についても興味深いデータを出している. 上記のような Hox の少なくとも一部は,骨になる硬節 (sclerotome) ではなく,背筋などの筋肉になる筋節 (myotome) 経由で肋骨の位置を決めているようなのだ. もうすこし正確に言うと,Hox は転写因子で,上記の Hox のターゲットは筋肉の分化に必要な Myf5 や Myf6 といった転写因子であり,肋骨形成に関して Myf5/6 は遺伝的に Hox の下流に存在する. そして筋節から分泌因子を介して硬節に情報が伝わる.

しかし,なぜそんな遠回りな経路をたどるのだろうか. 彼らの予想はこうだ. 骨と筋肉(骨格筋)は運動 (支持) 器官として互いに密接に関連している. したがって,それぞれ勝手に形を変える余地を残しておくと,よくないことが起こりやすいだろう. これが骨と筋肉を共通の分子機構で つくることの意義なのではないか.

ところでこの論文,Hox の本来の発現時期と発現領域について ほとんど言及していないのだが,それはちょっとどうかと思う. いや,レファレンス読めよという話なんだけど,イントロでちょっと説明してくれたっていいんじゃないの?

by LIBlog | 2010-04-28 19:26 | さいえんす関連
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