万有引力の「発見史」

昨日,「人物で語る物理入門」(米沢 富美子 著,岩波新書) の面白さの例として,ニュートンの万有引力の法則について書かれた部分を例に出してみたのだけれど,あれだけでは後に読み直したとき何が面白いのか思い出せなくなるかもしれないと思ったので,その部分をもう少し詳しく書いてみたい.

同書は,冒頭から3章までにおいて,「万有引力の法則」発見の意義がよくわかるように,時代背景と科学の「積み重ね」がていねいに解説されている.

ニュートンの万有引力の法則は,かずかずのニュートンの「発見」の中でもひときわ輝きを はなつものだ. 万有引力の法則とは「あらゆる物質には引力がはたらき,その大きさは距離の二乗に反比例する」というものである. この法則がニュートンにより「発見」されたことは どういう意味で画期的だったのだろうか.

話は古代ギリシアにさかのぼる. 古代ギリシア哲学では,「あらゆるものに共通する基本原理がある」とされた. しかし古代ギリシア最大の哲学者アリストテレスは,力学的原理については「地上の物体と天上の物体は異なる原理に支配されている」と主張している. アリストテレスにおいては,木から落ちるりんごと夜空の星ぼしの運動は結びついてはいなかったのだ.

時代はくだって中世ヨーロッパ. コペルニクスからガリレイを経て,地動説が一般に浸透するようになってきた. またガリレイは,思弁だけでも観察だけでもなく,実験と理論からなる「実証科学」を確立し実践したことでも知られている. そこには自然科学の方法論の萌芽がみられる.

ガリレイらとほぼ時を同じくして,ブラーエケプラーは詳細かつ長期間にわたる天体観測を行っている. これはのちに惑星の運行に関する「ケプラーの法則」として実をむすぶことになる. ケプラーの法則は,惑星の軌道,速度,公転の周期などを示すものだ. じつは万有引力の法則はケプラーの法則から導出されたものなのである.

さらに同時期,デカルト「同一の運動法則が全宇宙を貫いて支配する」という自然観をうちだしていた.

彼らはニュートンと同世代,もしくは一世代ほど上で,ほぼ同時代を生きている. 彼らの思索,観察が背景にあって,ニュートンの「発見」があった. りんごと惑星を結びつけた知的跳躍はたしかに天才にしか なしえない画期的なものだったが,その「発見」の観念的土台はギリシア哲学からデカルトにいたる系譜において準備されていたのである. また観察・実験的事実を数学的に理論づける自然科学の土台も,ガリレイにいたる系譜でととのえられていたのだ.

ニュートンの「万有引力の法則」は,それまでの歴史のいわば集大成のひとつといえる. その一つの頂点にたどり着くまでに,どのような積み重ねがあったのか,どのように未踏の地が切り開かれていったのか,それを理解することが「発見史」を眺める愉楽のひとつだ.

同書では,ニュートンと力学にとどまらず,マクスウェルと電磁方程式,ボルツマンと統計力学,アインシュタインと相対性理論などなど,物理学の主要な分野を「発見史」とともに解説し,めまいがするくらいのおもしろさを味わわせてくれる. そういう意味では物理学の入門書としては ちょっとないくらい楽しく読める本になっていると思う.

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いやー,意図したものとはいえ,いつにもましてカタい文章だなー. でも,こういう文章の方が書いていて楽しいんだけど.

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by LIBlog | 2010-05-11 22:05 | さいえんす関連 | Comments(0)
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