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ご主人様は山猫姫 7巻

鷹見一幸著,「ご主人様は山猫姫」7巻 北域見習い英雄編 が出た.


物語は,とても面白い展開になっていると思う.

この作品,最初に魅かれたのは「山猫姫」ミーネの奔放さだった.
辺境の一氏族の族長の娘として生まれ育ち,型にはまらない(わがままいっぱいの)言動で周囲を困らせていたミーネだが,それは単に子供であるがゆえの未熟さにすぎない. その行動の背後に,氏族の一員,代表としての誇りをにじませる姿は,この娘のスケールの大きさを感じさせるものだった. ああ,彼女はきっと素晴らしいリーダーになる.そう思っていた.

しかしミーネは主人公である晴凛に惚れ込み,その関心の多くを晴凛に向けていくことになる. 行動の自由闊達さは失われないものの,私自身としては,彼女の輝きが少しずつ失われていくようで,残念に思いながらシリーズを追いかけていた.

だが7巻になって,物語の展開に非常にわくわくさせられた. この作品世界が大きく変化していく,その変化の形がはっきりしてきたように思われたからだ. それはミーネがどうのとか晴凛がどうの,という個人個人への興味から,作品世界全体への興味へのシフトとも言えそうだ.

作品世界の広大な領域を支配する「帝国」は,そもそもその内部に腐敗とひずみを抱えていた. いつ崩壊してもおかしくない状態ではあったのだ. しかし,それがいつどのように起こるかは当然だれも予想できない.

おそらくその崩壊のきっかけを与えるのが主人公たちの行動である. それが遊牧民たちと中央が接触する辺境で起こる,というのがなんとも魅力的じゃないか. 主人公は中央で落ちこぼれた青年と,遊牧民たちの集団の中でやっかいもの扱いされた少女というのもまた,いい.

ただ,彼らの勢力はきわめて限定されたものだ. 「帝国」の兵力と経済力は圧倒的で,ふつうに考えればとても勝ち目はない.

だがその兵力や物流を,腐敗しきった官僚たちは扱いきれずコントロールしきれない. そこが主人公たちの付け入る隙となるわけだ.

主人公たちの暴れっぷりを見て,既得権益にありつけない者,辛酸をなめさせられている者,その多くが立ち上がる. 「帝国」対「主人公たち」が,「帝国」対「多数の反逆者たち」になるわけだ. 各勢力はそれぞれの思惑で動き,それぞれに優秀な人物を抱え,しかしその中枢となる人物たちは互いにわずかな,しかし確かなつながりを持っているのである. これはわくわくせざるを得ないだろう.

「帝国」の崩壊は,必然である. しかしそれがいつ誰によってどのように為されるかは,必然ではない. その場に殴り込み関わっていくことができるのならば,それはとてつもなく面白いにちがいない. まさにそうなりつつあるのが,7巻の展開なのである.

7巻まで至って,登場人物は魅力的なものから憎たらしいものまで百出で,ミーネだけでなく主人公たちそれぞれの影が薄くなりつつあるけれど,まあそれは仕方がないというものだろう. ともあれ物語世界が大きく動き出しそうで,先が非常に楽しみである.

ところで,おそらく「帝国」を倒すのは騎馬民族と中央の定住民たちの集合体ということになりそうな予感がするのだけど,これって実際に元とか清とかが中原を統一した時に起こったことなんだろうか? ……中国史は全然知らないのだが,ちょっと興味が出てきたかもしれない.

by LIBlog | 2011-04-16 19:34 | マンガ・本
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